ボクシング留学で変わった自分
Q. どうしてフィリピンでボクシング留学?
A. フィリピンでボクシングは非常に人気のスポーツで、日本でいう野球やサッカーぐらいの認知度なんです。世界チャンピオンも数多く輩出していて、特に”Manny Pacquiao”は、フィリピンでは英雄と呼ばれています。自分は、大学でボクシング部に所属している一方で、東南アジア文明を専攻していて、卒業研究としてフィリピンのボクシング文化を、自分の身を持って知りたい思ったんです。
Q. 今回のボクシング留学の中身について教えて下さい
A. 午前中はTarget Global English Academyさんで英語の勉強、午後はALA Boxingでトレーニング、帰って来てまた英語の自習と、なかなか息つく暇のないハードなスケジュールでした(笑)。最初はかなりきつかったですけど、今思えばこんなに濃い1ヶ月は人生で初めてだったなと、しみじみ思っています。
1ヶ月のボクシング留学を終えた鯉沼氏
※今回は、Target Global English Academy さんのTarget Lite 4コースをご利用させて頂きました。海外ワーカーなどに向けられて作られたコースで、午前か午後に4コマのマンツーマン授業のみの構成。半日は自由な時間を作ることができます。トレーニングをお願いしたのは、Cebuで1番の名門ボクシングジムALA Boxing。現役世界チャンピオンが2人も在籍するガチガチのジムです。日本からもプロボクサーが武者修行で何度か訪れているようですが、アマチュアのボクサーも気軽に受け入れて頂きました。
初めてのフィリピン
Q. フィリピンの第一印象を教えてください
A. まず、フィリピンにボクシングが強く根付いていることを感じました。学校の先生はほとんど女の先生ですが、誰と話してもボクシングの話が通じるんです。もちろん”Manny Pacquiao”のことなんて知らない人はいません。日本だとこうはならないです(笑)。日本人がみんなイチローのことは知ってるみたいな感じですかね。
Q. ジムではどうでしたか?
A. 屋外なのに最初びっくりしました(笑)。日本だと普通は室内なので。ただ、練習機材はしっかり揃っているし、リングも2つあって、自分の大学の練習施設よりすごいいい環境だなと思いました。
ところどころ古さは感じるが高パフォーマンスの施設
歴代のポスターがところ狭しと飾ってある
ALA Boxing でのトレーニング
Q. 初めての経験で緊張したんじゃないですか?
A. はい。日本のプロボクサーでもない無名の選手なんで、よそ者扱い、邪魔者扱いされるんだろうなってビクビクしてたんです。でも、最初からみんなフレンドリーで優しく接してくれて、言葉もわからない僕を、ご飯や試合にも誘ってくれました。これが南国の気質というか、フィリピン人が明るくフレンドリーだと言われる所以が早々にわかった気がしました。
食事の一幕。この魚が自分たちのプロテインだと彼らは言う。
Q. 一緒にトレーニングをする中で感じたことを教えてください。
A. 上下関係が全くないことに驚きました。日本だと縦社会が強いと思うのですが、年齢やキャリアの差を全く感じませんでした。みんな小さい時からボクシングジムの寮に住んでいて共同生活を送っているんです。仲間というより家族。友情より愛情に近いものを感じました。彼らだけに限るのかと言えばそうでもない。突然やってきた私にも同じスタンスで接してくれる。本当に暖かい人たちだと思いました。スポーツをする環境という意味でも非常にやりやすかったです。日本だと上下関係のせいで下の立場の人間は我慢することが多く、満足のいく練習ができないこともある。でも、ここでは皆が平等に、自分を高めるために集中ができます。人間関係のしがらみを気にすることなく、まっすぐにボクシングに打ち込むことができました。
Q. お金への価値観の違いも感じたって言ってましたね
A. はい。スパーリングは1ラウンド100ペソ(220円くらい)で、これに関してはジムにではなくて対戦相手にバイト代みたいな感じで払うんですが、これをすると対戦相手と急激に親しくなるんです(笑)。対戦相手は皆アマチュアのボクサーなんですが、お金への執着が素直すぎて(笑)。ただ、全く嫌な気はしませんでした。みんなボクシングでお金を稼ぐために、小さい時から頑張っていて、少量ではありますがファイトマネーみたいな感じで貰えるお金が嬉しいんだと思うんです。この1ヶ月でフィリピンの貧困の部分もたくさん知ったので、余計に考えさせられる部分でもありました。
小学生から世界チャンピオンまでが練習するALA Boxing
Q. 他に日本と違うと思ったことは?
A. 練習は本当にきついんです(笑)。でも、誰も一切弱音を吐かない。そして見せない。みんなで励ましあって、きつい練習をとことん楽しんでやっている。そういう風に見えました。時々練習中に笑い声や、ふざけた雑談が聞こえるんです。日本だと真面目にやってる感じを出さないとダメじゃないですか。練習中は私語厳禁なんてのも割と一般的だと思います。初めは「ふざけてんのかな」って思ったんですけど、インターバルが終わると別人なんです。すごい剣幕でミットを打っている。メリハリがすごい。やっぱり日本とは常識が違うんだなと思いました。最終日に自分が、”世界チャンピオンと写真が撮りたい”ってコーチにお願いしたら、チャンピオンが練習を中断して写真をとってくれたこともありました。終わった後は、また顔付きを戻して練習を再開していました。日本だったら考えられないです(笑)。練習が終わってからか、撮るの自体拒まれると思います(笑)。
その時とった写真(現IBF世界フライ級王者のDonnie “Ahas” Nietesと)
英語がコミニュケーションツールになった
Q. 語学留学に関しても聞かせて下さい
A. 自分にとって語学学校はジムでのコミニュケーションツールとしての英語を学ぶ場所でした。初めのころ、ジムでは相手の話していることがほとんど理解できず、なんとか相手のボディランゲージをみて練習についていくのが精一杯。もどかしさがずっとありました。そこでの悔しい思いが、語学学校での勉強のモチベーションに繋がったと思っています。
Q. 授業はどうでしたか?
A. 日本と違って、Speakingがメインのマンツーマン授業では、英語の難しさを強く感じました(笑)。ボクサーたちもそうですが、明るくフレンドリーな気質のフィリピン人の先生との授業は、”楽しく学ぶ”と言う言葉が最適で、50分のマンツーマンと聞くとかなりきつそうですが、一切そんなことは思いませんでした。間違いなくここでの勉強が、ボクシングにも繋がったと思います。
Targetとは語学学校の中でも初心者向けに力を入れている
Q. 成果はありましたか?
A. 4週目になると、自分でも違ってきたという実感がありました。相手の言っていることがだんだん理解できるようになってきて、少しではありますがセンテンスの会話もできる。会話がままならなかった初週と比べると自分の成長を感じました。ジムではコーチや選手とも意見交換ができるようなり、コーチも「ヒデキ!英語が上手くなったな!」と褒めてくれました。ボクシングを通じて心を通じ合わせることもできると思いますが、彼らとより深い関係を構築できたのは、英語でコミニュケーションがとれたからだと思います。
“最初は俺の言うこと何も理解してなかったもんな”とコーチ
最後に
Q. フィリピンはアナザースカイになりましたか?
A. 本当に濃い1ヶ月でした。海外旅行の経験は何度かありましたが、同じ場所に長く滞在したことは今回が初めてで、現地の人と強く関わり、今まで知らなかった世界がひらけました。まさに”アナザースカイ”です(笑)。最初は卒論のためにと思っていましたが、もっと何か人生として大切な物を掴むことができた素晴らしい時間になりました。ALA Boxingの人たちにも、また戻ってくると約束しました。いつになるかわかりませんが、必ず戻ってきます!
写真
コンディショニングトレーニング
1ヶ月間、筋肉痛が消えない日はなかったと鯉沼氏
スパーリングの一コマ
相手は17才とは思えない強さのプロ候補
2017年5月八重樫東を破ってIBF世界ライトフライ級王者になった”Milan Melind”
プライベートはリングとは別人でめちゃめちゃお茶目な人なんだとか